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長野地方裁判所松本支部 昭和33年(ワ)4号 判決

原告 松尾みゆき外五名

右訴訟代理人弁護士 銭坂喜雄

被告 住友海上火災保険株式会社

右代表者 花崎利義

右訴訟代理人弁護士 伊達利知

溝呂木商太郎

伊達昭

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

訴外亡松尾豊及び原告松尾みゆきが訴外亡松尾義重の実父母であり、右義重が昭和三十一年十一月三十日右豊が昭和三十二年二月十四日何れも死亡したことは被告の認めるところである。原告松尾常子、同松尾たか子、同松尾典男、同松尾茂男、同松尾清子が何れも右義重の姉弟妹であり、同人の死亡により昭和三十一年十一月三十日その両親である松尾豊及び松尾みゆきがその遺産を共同して承継し、更に昭和三十二年二月十四日右豊の死亡により右姉弟妹である原告等が右みゆきと共同して右義重の遺産を含む右豊の遺産を承継したことは成立に争ない甲第二号証(戸籍謄本)によつて明かなところである。

訴外亡松尾義重が昭和三十一年六月より訴外小諸市丁六一〇番地新井木材株式会社に運転者として雇われ、同会社の自家用貨物自動車の運転に従事し、昭和三十一年十一月二十九日は自家用貨物自動車(登録番号長一す二三八五号)を運転して長野県上水内郡牟礼村上村から信越線牟礼駅まで同会社のために木材を運搬していたこと。訴外井出勝芳が前記松尾義重の運転する貨物自動車に助手として乗車したが途中で代つて自動車を運転し同日午後五時三十分頃牟礼村夏川横割地籍林道窪入線の道路上に於てバツクする際車外に降りていた右松尾義重を轢き翌三十日午前六時同人をして頭蓋骨々折等の重傷により死亡するに至らしめたこと、は何れも当事者間に争ないところである。

右自家用貨物自動車については被告会社との間に昭和三十一年二月一日附保障法に基く保険契約が締結されており、本件前示事故が右保険契約期間中に発生したものであることは被告の認めるところである。

原告等は保障法第三条に所謂他人とは自動車を運転した者又は運転の補助に従事していた者で当該事故につき責任ある者以外の第三者であつて、訴外亡松尾義重は本件事故発生当時運転に従事していなかつたし事故に対する責任者でないから保障法第三条の所謂他人に該当する旨主張し、被告は同条に所謂他人とは保有者及び運転者以外の第三者を指し訴外松尾義重は本件事故発生当時下車してバツクする自動車の傍で進行方向を指示しており保障法第二条第四項及び約款第二条第一項の運転者に該当する旨主張するを以つてこの点につき考えてみると成立に争ない甲第三号証、証人井出勝芳、同鈴木好吉の各証言を綜合すると訴外井出勝芳は、昭和三十一年十一月二十九日午前二時頃より前記貨物自動車に運転助手として乗込み訴外新井木材株式会社のために牟礼村上村より牟礼駅まで木材を運搬し午前六時頃同駅に着いたところ、悪路のため同日午後四時頃まで同駅前の宿で休み再び上村に向い木材運搬の目的で訴外亡松尾義重の運転する自動車に助手として乗込み発車したが途中右義重が店に立寄つて酒を飲み酩酊して運転したため、崖に突き当り畑に乗り入れたりして危険を感じ自己に運転資格があることから同人に代つて自動車を運転し、同日午後五時三十分頃林道窪入線にさしかかつたが同所が急カーブと悪路のため路面にタイヤがめり込み再三バツクして急坂を登ろうとしたところ、運転技術の未熟のため自動車の扉を開閉して車外に降りて傍でバツクする自動車の運転方向を指示していた右亡松尾義重を轢き死に至らしめたことが認められる。右認定に反する何等の証拠がない。

右認定の事実によれば訴外亡松尾義重は前記事故当時現実に自動車を運転していなかつたが運転補助者として自動車の運転に従事しておつたのであるから本件事故については保障法第二条第四項に所謂運転者に該当するといわざるを得ない。

保障法第三条は自動車の運行によつて他人の生命又は身体を害した場合に保有者に損害賠償責任の発生を認めた規定である。右松尾義重は前認定の通り同条の他人に該当しないから前記貨物自動車の保有者である右新井木材株式会社に損害賠償責任が発生するに由なく同会社の損害賠償責任の発生を前提とする原告等の本訴請求はこの点に於て失当たるを免れない。よつてその余の判断を省略し原告等の本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 清水又美)

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